制作物の要件定義書の作り方

🌱 はじめに

🎨 トラブルが起きる要因

制作物を依頼する際に、クオリティが落ちてしまったり、想定した完成品とズレが発生することがあります。このトラブルの多くは「指示の曖昧さ」から生まれます。発注前にしっかり要件を定義することで、修正地獄や認識のズレを防ぐことができます。

🧭 要件定義書とは?

要件定義書とは、「どんなイメージで・どんな仕様で作るか」を明確にした設計図です。クリエイターに丸投げするのではなく、発注者側の考えを明文化して、制作のゴールを共通認識にするための資料です。

🚫 フォーマットはない

システム開発などには要件定義書の形式がありますが、クリエイター向けの要件定義書に明確なフォーマットは存在しません。そのため、クリエイターが制作に困らないよう、必要最低限の情報を整理した資料があれば十分です。

📄 要件定義書の基本構成

■ 基本構成

以下の7項目を明文化すれば、十分に実用的な要件定義書になります。シンプルでも構いません。大切なのは「誰が見ても同じゴールをイメージできること」です。

  • ①完成イメージ
  • ②参考資料
  • ③納品サイズ(1920×1080)
  • ④納品フォーマット(mp4/Jpeg)
  • ⑤著作権の範囲・使用目的
  • ⑥スケジュール
  • ⑦修正の約束事

【発注メールでもOK】
③~⑦に関しては、発注メールで明文化するのも問題ありません。ただし、見落としを防ぐためにも、要件定義書にも記載しておくのがおすすめです。

💻 要件定義書を作成するソフト

特に決まった形式はありませんが、一般的には以下のツールがよく使われます。

☁️ Googleドキュメント / Googleスライド

無料で使え、クラウド上でリアルタイムに共同編集が可能です。他作品へのリンクを貼ったり、参考資料を挿入したりするのにも便利です。

【オススメポイント】
修正履歴が残るため、更新内容の管理が簡単。スマホやタブレットからでも確認可能です。

🧾 Word / PowerPoint

一般的な方法です。見出し・表・画像などを簡単にレイアウトでき、PDFでの共有にも向いています。

【注意】
近年では、Officeソフトを所有していない人も増えています。そのため、Wordデータで資料を送ると「資料が開けない」などのトラブルが発生する可能性があります。

🔗 参考イメージはURLを貼る

クリエイターにイメージを伝える際は、参考画像や参考動画を用意しましょう。参考資料は、URLを貼り付けて共有するのがおすすめです。

参考動画の場合は、YouTubeなどのURLを共有しましょう。

参考画像の場合は、Google画像検索を活用するのがおすすめです。画像右上の三点リーダー(⋯)から「共有」ボタンをクリックすると、画像のURLを発行できます。

🖼️ ①完成イメージ

完成イメージとは、クリエイターが最終形を正確に想像できるようにするための資料です。文章よりも、画像・映像・構成図などの視覚的な資料を用意すると効果的です。

■ Vtuberモデル・キャラデザ関連・三面図

〇 お任せする場合

デザインをお任せにする場合でも、ある程度の情報を伝える必要があります。最低限、以下の情報は、相手側に共有しておくのがおすすめです。

  • 見た目の性別
  • キャラの雰囲気:ふんわり癒し系
  • 世界観:中世/未来系
  • 色合い:緑ベース
  • 体型:子供/大人
  • スタイル(筋肉量):マッチョなど
  • スタイル(バストサイズ):巨乳など
  • 服装:メイド服/警察官系
  • 髪型の方向性:ツインテール
  • 顔の雰囲気:クール系

【注意】
自身の頭の中にあるイメージとずれが発生しないように、必ず画像などの資料も添付しておきましょう。

〇 お任せしない場合

それぞれのパーツごとに指示を入れましょう。デザイン部分を細かくパーツに分けて依頼すると、完成イメージのズレを防げます。最低限以下のパーツの指定をするのがオススメです。

  • 見た目の性別
  • 顔の輪郭の指定
  • 目の指定(形・色・塗り方など)
  • 口元の指定(形・色など)
  • 口の中の指定(塗り方・歯の形など)
  • 前髪の指定(形・色など)
  • 後ろ髪の指定(形・色など)
  • 体格の指定(幼児体型・大人の体型など)
  • 筋肉量の指定
  • バストサイズの指定
  • 上半身の服装の指定
  • 下半身の服装の指定
  • 頭部の服装の指定
  • アクセサリーの指定

【注意】
自身の頭の中にあるイメージとずれが発生しないように、必ず画像などの資料も添付しておきましょう。

■ 1枚イラスト

〇 お任せする場合

1枚イラストを「お任せ」にすると、クライアントとのすり合わせに工数が増え、クリエイターは嫌がることが多いです。「お任せ=修正地獄」と考えてしまう人も多いです。できる限り、ラフや参考資料を用意するのがおすすめです。

それでもお任せしたい場合は、最低限以下の情報を伝えましょう

  • 画面サイズの指定(バストアップ?ウェストアップ?全身図)
  • 背景の方向性(あり or なし)
  • ポーズ・シチュエーション(ざっくりとしたポーズ)
  • 表情(笑顔/シリアス/驚き など)
  • カラー設定(フルカラー or モノクロ)

【画面サイズとは?】
画面サイズとは、キャラクターを「どのくらいの範囲で描く(映す)」かを明確にするための指定です。「カメラサイズ」と呼ばれることもあります。以下を参考にしてみてください。

【修正を妥協する】
お任せにした場合、理想通りのものが届くことはほとんどありません。そのため、修正を重ねて理想を追求しようとする人もいますが、クリエイターが疲弊するので避けましょう。「お任せ」にした時点で、ある程度妥協する姿勢を持つのが正解です。

〇 ラフがある場合

ラフがあると、制作の進行が格段にスムーズになります。下手でも大丈夫です。マウスで描いた棒人間でもOKです!大切なのは、イメージを「言葉ではなく形」で伝えることです。

またラフに加えて以下の情報も明文化しましょう。

  • ポーズ:座り/立ち/走りなど
  • 背景のイメージ:森の中/喫茶店/夜の街など
  • 表情:笑顔/シリアス/照れ顔など
  • 顔の向き:体の中心 or カメラ側を向く
  • 目線:カメラ目線/視線を外す など
  • 色の塗り方:アニメ塗り/水彩風/厚塗り など

【補足】
ラフがあっても、ポーズ資料は送りましょう。ラフが下手で意図が正確に伝わらないことがあります。

【注意】
自身の頭の中にあるイメージとずれが発生しないように、必ず画像などの資料も添付しておきましょう。

〇 ラフがない場合

ラフを用意するのが難しい場合は、できる限り細かく指定しましょう。最低限以下の情報を伝えるのがオススメです。

  • ポーズ:座り/立ち/走りなど
  • 手のポーズ:握っているか/リラックスしているか
  • 表情:笑顔/シリアス/照れ顔など
  • 顔の向き:体の中心 or カメラ側を向く
  • 目線:カメラ目線/視線を外す など
  • 背景のイメージ:森の中/喫茶店/夜の街など
  • 小物のイメージ:背景のどこになんの小物を置いて欲しいか
  • 色の塗り方:アニメ塗り/水彩風/厚塗り など

【注意】
自身の頭の中にあるイメージとずれが発生しないように、必ず画像などの資料も添付しておきましょう。

■ 歌ってみた動画/ティザーPV

〇 絵コンテがない場合

多くの人が、絵コンテ(構成案)を自分で作れない状態で依頼を行います。その場合は、映像クリエイターに絵コンテや仮編集ムービーを用意してもらう前提で進行することになります。

ただし、依頼者側も以下の事前イメージの情報を着手前に準備しておくとスムーズです。

  • 参考映像:「こういう雰囲気にしたい」というYouTubeURLを3本ほど提示
  • 入れてほしい要素:「歌詞テロップを入れる」「背景を夜空にする」「間奏でロゴを表示」など
  • 簡易的な構成案(文字ベース):「Aメロ=静か/Bメロ=動き出す/サビ=光が広がる」など
  • 使用素材の情報:キャラ立ち絵やイラストなど提供できる素材を用意

〇 絵コンテがある場合

自分で絵コンテを作成できる場合でも、必ず制作者にチェックしてもらうのが大切です。また、絵コンテを用意した場合でも事前イメージの情報を用意しましょう

  • 参考映像:「こういう雰囲気にしたい」というYouTubeURLを3本ほど提示
  • 入れてほしい要素:絵コンテで分かりづらいところを別途説明
  • 文字での構成案:絵コンテに沿って文字に落とし込む
  • 使用素材の情報:絵コンテで指示がある素材がどれか説明

■ 切り抜き動画

〇 依頼時に必要な情報

切り抜き動画を依頼する際は、以下を必ず共有しましょう

  • 実際の配信のURL
  • 配信の動画データ:Gigaファイル便などで共有しましょう。
  • 秒数指定:「00:35〜01:15」と「02:24〜05:11」など細かく指定
  • 参考にしたい切り抜き動画:テンポや編集スタイルを伝えるための参考URL。
  • 使えそうな素材:配信素材、差分イラスト、表情素材などを事前に共有。

【動画データの用意】
切り抜きを行う編集者が動画データをダウンロードしてくれることもありますが、画質が大きく下がってしまうことが多いです。そのため、動画データは自分で用意するのがオススメです。OBSの「配信と同時に録画する機能」を使うことで、配信した映像を別途MP4などで保存できます。

〇 お任せはしない

切り抜く箇所を「お任せ」にしてしまうと、以下の問題が起こりがちです。

  • 🎞 追加料金が発生する(編集者が素材選定を行うため)
  • 😕 あまり面白くないシーンを選ばれてしまう(依頼者の意図が伝わらない)

そのため、必ず時間指定を行いましょう。自分で「ここを切り抜いてほしい」と明確に示すことが、仕上がりの質を大きく左右します。

■ サムネ

〇 依頼時に必要な情報

下記の情報を明文化して伝えましょう。

  • 入れたい文字情報
  • 参考になるサムネ:理想に近い他配信者のサムネ画像URLを共有
  • 色の方向性:明るい/ダーク/ビビッドなど。
  • 動画の内容:サムネに使う動画の内容
  • 動画のタイトル:サムネに使う動画のタイトル

【サムネのURL取得方法】
競合の動画のサムネのURL取得したい場合、以下のツールを使うのもオススメです。以下のサイトは動画のURLを入力したら、サムネのURLを発行してくれます。

📁 ②参考資料

🧩 参考資料とは?

要件定義書では「完成イメージ」とは別に、制作をサポートする補足資料を用意しておくのが理想です。これにより、クリエイターがより正確にキャラクターや世界観を理解でき、制作効率も大幅に向上します。

デザインや映像制作など、「完成イメージの資料」だけでは伝わりにくい細部の設定を共有する目的で使用します。

📃 添付しておくと良い資料例

  • 三面図:キャラクターを正面・側面・背面から見た設定画。
  • 過去のイラスト一覧:自身または他者が描いた過去の作品。
  • 表情差分や小物資料:キャラの感情差分、アクセサリー、小道具などのデザイン。
  • 世界観資料・背景参考:舞台となる街・室内・自然環境などのビジュアル参考。
  • 関連動画・アニメカット:イメージに近い映像作品のシーンや演出例。

💡 共有時のポイント

GoogleドライブやDropboxなどのクラウドリンクを貼っておくと、データ管理がスムーズです。

ただし資料を詰め込みすぎないのがオススメです。大量に共有すると逆に混乱を招き、最悪見てもらえないです。制作に直接関係するものだけを厳選して渡しましょう。

🎨 ③納品サイズ

納品サイズとは、最終的な制作物の「解像度」や「縦横比」を指します。

動画・イラスト・サムネイルなど、どんな形式の作品でも、このサイズ指定を明確にしておくことで、画質の劣化やトリミング事故を防ぐことができます。

要件定義書にも記載しておくのがオススメです。

【サイズがよく分からない場合】
適切なサイズが分からない場合は、素直にクリエイターへ相談するのがおすすめです。「YouTube用」「X用」「Shorts用」など、どこで使用するのかを伝えることで、相手側が最適なサイズを提案してくれます。
また、以下の記事におおよそのイラストサイズの目安をまとめていますので、参考にしてみるのもオススメです。

🎞️ ④納品フォーマット

納品フォーマットとは、完成データをどの形式で受け取るかを指定する項目です。形式を明確にしないと、受け取ったデータが使えなかったり、再編集ができないなどのトラブルが発生することがあります。

  • イラスト・サムネの場合:jpeg / png / webp
  • イラストの編集データ:psd / clip
  • 動画の場合:mp4 / mov
  • 動画編集データ:aep / prproj / canva

【補足】
レイヤー分けで納品を希望される場合、PSD形式での納品になります。

🧱 レイヤー分けの指定

イラストやサムネデザインの場合、レイヤー構造をどうしてほしいかを明文化しておくと、後の編集がスムーズです。

📌 例:レイヤー分けの指定例
「背景・キャラ・文字を別レイヤーにしてほしい」
「キャラパーツ(目・口・髪・体)を個別に分けてほしい」

【注意】
レイヤー分けを細かく指定する場合、作業工数が増えるため追加料金が発生することがあります。

⚖️ ⑤著作権の範囲・使用目的

✅ 明文化の大切さ

制作物の著作権は、原則として制作したクリエイターに帰属します。

ただし、クリエイターに依頼するケースでは、発注者が著作権の一部または全部の権利を得ることができます。しかし、著作権や使用範囲の取り決めが曖昧なまま納品され、後から制作物に関するトラブルへ発展するケースも少なくありません。

事前に著作権の取り決めを行い、必ず要件定義書にも明文化する必要があります

📜 発注の交渉段階で決める

発注の交渉段階から著作権について取り決めておくのがおすすめです。下記の記事の「著作権等、権利関連の確認」もあわせてチェックしておきましょう。

📆 ⑥スケジュール

発注段階でスケジュールを取り決めることが多いかと思います。その際は、決定したスケジュールを要件定義書にも明文化しておくのがおすすめです。

依頼日:〇月〇日
ラフ提出日:〇月〇日
チェック・修正日:〇月〇日(フィードバック提出)
納品予定日:〇月〇日(最終データ納品)
追加修正対応期間:納品後〇日以内(例:7日以内に軽微な修正対応)

✒️ ⑦修正の約束事

発注段階で「修正回数」など、修正に関する取り決めを行うことがあるかと思います。その際は、決定した内容を要件定義書にも明文化しておきましょう。

ラフ段階の修正回数:2回まで無料
着色段階の修正回数:2回まで無料
納品後の修正回数:軽微な修正1回まで無料
修正範囲:色味調整・文字修正など軽微な変更のみ対応/構成変更は別料金
追加料金の目安:大幅な改稿・構図変更(○○円〜)

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